フォトクロミズム
物質に光を当てると色が変化する「フォトクロミズム」の実験です。 1,3,3-トリメチルインドリノ-6’-ニトロベンゾピリロスピラン(以下、単にスピロピランと呼ぶ)に紫外線を照射することで色が変化していく様子を見ていきましょう。
用意するもの
薬品
トルエン 3.0 mL
スピロピラン 0.01 g
器具
試験管 1本
紫外線照射機 1個
手順
①試験管にトルエンを3 mL入れ、スピロピランを0.01 g溶かす。ほぼ無色の溶液になる。
②試験管に紫外線を照射する。溶液が青紫色になるのが確認できる。
解説
【1】フォトクロミズムについて
フォトクロミズムは物質に光が当たることで色が変化する現象のことです。「~クロミズム」という現象は他にもサーモクロミズム(温度によって色が変化、フリクションペンのインクとかに使われている)、ソルバトクロミズム(溶媒によって色が変化)、エレクトロクロミズム(電気化学的酸化還元反応によって色が変化) などがあります。 フォトクロミズムはその変色を利用して調光剤として幅広く利用されています。例えば、太陽光に当たると濃い色に変色し、室内では元の色に戻る調光サングラスなどがあります。(調べたところZoffでフレーム代+3000円とかで入手できるらしいです。意外と安い)
また、最近では、先端科学の分野では色の変色を利用して情報を記録する光記録材料や、光スイッチなどの技術への応用研究も進められています。今のところ研究段階ではあるもののパソコンのメモリなど、様々な分野でフォトクロミズムを利用した技術が研究されています。
【2】より詳しい機構の解説
先ほど見た通り、スピロピランと呼ばれる化合物に紫外線を照射すると、無色から紫色に変化します。この時、スピロピランは、紫外線の持つエネルギーによって結合の開裂等が起こり、スピロ形と呼ばれる閉環構造から、メロシアニン形と呼ばれる開環構造へと変化しています。
スピロ形分子では、構造式の右半分と左半分が炭素で直交しているので、π結合の共役が途切れ、共役形が短くなっています。このため、スピロ形分子は可視光をほとんど吸収せず、無色です。これに対して、メロシアニン形分子はほぼ平面構造をとり、π結合の共役が分子全体に広がっています。共役が長くなると一般的に吸収波長は長波長側にシフトしてきます。メロシアニン形分子は可視光を吸収し、着色します。着色したメロシアニン形分子は不安定なので、光が当たらなくなると、無色のスピロ形分子に戻ります。このように、フォトクロミズムは、光によって分子が反応して、その形を変えることに起因しています。
スピロピラン以外でもフォトクロミズムを示す物質はあります。例として、アゾベンゼンを示します。
アゾベンゼンは N=N 二重結合を持つジアゾ化合物で、N=N 二重結合に対してcis型とtrans型の二種類の幾何異性体が存在します。ベンゼン環どうしの立体反発などの理由から、trans 型は cis 型よりもエネルギー的に安定しているため、通常は trans 型として存在しています。trans 型アゾベンゼンに紫外線を照射すると、紫外線の持つエネルギーによってN=N二重結合が開裂し回転。trans型がよりエネルギーの高いcis型へと変化します。このcis型分子は紫色の光を吸収するので、補色である赤橙色に結晶が変化します。反対に、cis 型が trans 型へと戻る時はエネルギーが下がるので、紫外線を放出します。trans型は可視光を吸収しないのでtrans 型の結晶は無色に見えます。
参考文献
色の変わる分子~クロミック分子~
http://www.chem-station.com/yukitopics/photochromic.htm
https://www.tcichemicals.com/eshop/ja/jp/category_index/12989/
フォトクロミック膜、及びフォトクロミック膜の作成方法-astamuse
https://astamuse.com/ja/published/JP/No/2000226572
『基本有機化学』 村田滋 東京化学同人
『新版 現代物性化学の基礎』小川桂一郎 小島憲道 講談社
実験の様子
光を当てる前と後で色の変化がわかります